マテックス株式会社

「窓からみえる世界を変える」

記念すべき第一回目の記事でご紹介するのは、1928年(昭和3年)にガラスの卸業者として創業されたマテックス株式会社(以下、マテックス)。2023年9月12日、マテックスが運営するサードプレイス「HIRAKU IKEBUKURO-01 SOCIAL DESIGN LIBRARY(以下、HIRAKU)」にて、「顧客に選ばれ、未来を創り出す企業経営を構想する」という内容で講演された代表・松本さんのお話をもとに、Lovable company研究員・渡辺が「顧客に愛される企業の秘訣」を探究してみます。

ガラスの卸販売業として創業したマテックス。現在は「窓をつうじて社会に貢献する」という経営理念を掲げ、環境負荷軽減、ウェルビーイング、コミュニティデザインなど、多角的に事業を展開しています。イベント会場にもなったHIRAKUの運営や、持続可能な社会づくりのために窓や建築業界からの貢献を掲げ、他の企業も巻き込みながらロングライフ・ラボという一般社団法人も立ち上げています。

マテックスの企業理念である「窓をつうじて社会に貢献する」と聞いて、どんなことが思い浮かぶでしょうか。窓が社会課題とどう結びつくのか、最初は見当もつきませんでしたが、松本さんのお話を聞けば聞くほど、窓を通じてさまざまな社会課題とその解決方法が見え、どんどんと引き込まれていきました。そんな、多くの人々を魅了する松本さんはどんな困難を乗り越えてきたのでしょうか。

(ライター 渡辺優)

社会の変化に柔軟に対応し続ける。それでも変わらないものとは

長い歴史を持つマテックスは、社会の変化に柔軟に対応してきたに他なりません。先代の時代は経済的な価値が求められ、売上最大、コストは最小、それらで会社の優位性が決められていました。財務諸表で評価される経済価値が大切にされてきた時代です。しかし2009年に3代目の代表に就任した松本さんは、社会の変化を敏感に捉え、会社の方向性を変える必要性を感じ、3つのステップを通して変革を進めました。

まず一つ目は、企業理念の策定と浸透です。会社の方向性を示す経営理念を決める際に「変えるもの」「変えてはいけないもの」を慎重に見定めるために、長年勤めてきた社員に聞いてまわりました。そのなかで、先代が残してきた言葉が社内に大事にされていることを実感したそうです。

これまでの会社に流れる文脈をしっかりと読み解き、新しい理念に入れていくことが大事だと松本さんは語ります。

代表就任後に理念が策定されました。しかし、それを皆で唱和したところで浸透するには至りませんでした。そこで松本さんは、戦略的な企業文化づくりを実践するアメリカの靴のオンライン販売会社「ザッポス(2009年にAmazonが買収)」の視察行きを決めます。そこでの学びの実践に5年費やして得た知見によって、文化を醸成させる取り組みをデザインしました。その一つが「VISION90」。理念をベースとした仕事とは直結しないテーマを、みんなで1時間議論する取り組みを毎月2回実施しています。

議論するテーマを「仕事に関連したもの」にすると、結果として業務経験などによって差が生じてしまい、対等な議論が難しくなってしまいます。だから仕事とは直接関係が薄い、答えも一つではないようなテーマを題材として、2013年頃からこの対話を続けています。今いわれているパーパス経営に近いものを、世間的なブームよりも10年近く前から実施していることになります。

コロナ禍もありましたが、月2回の議論の場だけでなく社内でリアルな対話を繰り返し、いろいろな角度から皆で分かち合って方向づけをしていく、という機会を意識的に増やしてきました。このような場に、松本さんも積極的に参加しています。「コア・バリュー スピーチリレー」「スイッチミーティング/アクセルミーティング」「エコ窓×お父さんの仕事」などイベントのタイトルを見るだけでも、とても面白そうですよね。

未来が歓迎するビジネスとは ー共創志向型企業は「楽しい」から続くー

企業理念を通じて「社会志向型」として定め進めてきたマテックスですが、会社づくりの二つ目のステップとして、松本さんは「共創志向型」への変化に着手していきます。

企業は課題解決の報酬として売上を得ることで事業を展開していますが、まずは市場性の大きい分野から着手していくため、最後には難易度が高い課題や、解決は簡単ではあるが事業性が低い領域が残り、どうしても費用対効果が合わないことで解決されない社会課題の領域が生まれてしまいます。

その部分は自社単体での挑戦が難しいので、知見や経験、実行力のある人たちと共創パートナーシップを組んで、一緒に取り組んでいくことを志向しています。その一つの取り組みが「サステイナブルパートナーフェスティバル」です。

事業をサステナブルにシフトさせるにはどうすればできるのか、お客様である仕入先の方々と一緒にロードマップづくりを進めているそうです。

「今までは、正しいことを正しく行うだったが、これからは正しいことを「楽しく」行う。そのためには、どんなエッセンスを新たに持ち込めばいいか。そして誰と一緒にやればいいのか。楽しくできれば長く続く可能性も高まるのではないだろうか」

企業理念もそうですが、サステナブルを企業として取り組んでみよう!となると、どうしてもちゃんとしよう、しっかりしなければ……というトーンになってしまうことが多くあります。しかし、それは顧客もさることながら、スタッフを巻き込むことも難しいものです。

そのためにマテックスでは、楽しく取り組めるような勉強会や、関連する映画をみんなで見て感想を共有し合うようなイベントを実施したり、取引先企業にパーパス経営の支援を行っていたりするそうです。そうすることで自社のみならず、自社を取り巻く生態系も一緒に変化をしていくことを試みています。

共創パートナーシップ展開として、いくつかある事例のもう一つが、2019年のロングライフ・ラボという一般社団法人の立ち上げです。日本における窓の断熱性の低さが、健康に害を与えたり、地球温暖化に強く関係していたりするということを知り、窓を始めとする建築業界から持続可能な社会づくりに貢献できるよう他の企業も巻き込み、業界全体で課題解決に取り組んでいます。

そのような考えに至っているのは、そもそも経営理念に「卸の精神」、つまり取引先である卸も大事にしながら社会をつくっていこう、という思いがあったことが起因しています。

今までの卸事業は、お客様をビジネスの主役にし、そうすることで産業界における好循環を生む役割でした。しかしこれからは、お客様とは受発注の関係だけでなく、お客様にも成長いただき、地域社会の主役になるような関わり方、結果として地域社会における好循環を生むあり方を目指しているそうです。

仕事を自分ごと化する 個人の成長にも他社を巻き込む

会社づくりの三つ目のステップとして、組織内の環境整備に松本さんは取り組んでいます。その根本にあるのは、仕事を「自分ごと化」できるかどうか、という点です。

最近の学生が選ぶ企業の軸は、社会に貢献ができることや自己成長を実感できる環境だそうです。しかしながらコロナ以降、企業と個人との関係性を高めていくことに対して難易度は年々上がっています。マテックスでは2018年頃より社内に「マテックス大学」を開校し、人材教育に多くの時間をかけてきていますが、社内だけではどうしても限界があったようです。

学びはもっと広くオープンなものですし、自社のみならず社会にとっても大事なものでもあります。そこで会社でもなく家でもない、学びを軸としたサードプレイスとして「HIRAKU」という事業を始めるに至りました。

やりたいことがある人がいて、それを応援しあえる場所。そんな場をつくっていきたい、という思いで始まった新規事業は、自社内の人材教育という視点のみならず、他社や地域をも巻き込んでいく試みにつながっています。

「真の年”功”序列、年功序列ほど最高な言葉はないと考えています。」

時代錯誤とも捉えられる「年功序列」。しかしマテックスには定年がなく、歳を重ねて功を積む、という考え方が取り入れられています。あの人と一緒にやっていきたい、と同僚から思われるのが大事なのではないか。そんな組織のあり方を松本さんは考えています。そのためには学び続けることが大切で、その環境の整備に企業として取り組んでいます。

”楽しさ”から始まる、周りを巻き込む言葉たち

ここまで、松本さんが会社を引き継ぎ、どのように社会の変化に柔軟に対応してきたかをお聴きしてきましたが、松本さんが行う事業展開に惹き込まれていきました。

「自分らしい取り組みをどのように進めていくと理解が得られ協力が得られるのか、ということを考えることがとても楽しくて。移動時間の時によく閃いたりします。その閃いたアイデアをどんな言葉で伝えていくといいのか。その楽しさを大事に伝えていくことはとても大事だと思っています。」

松本さんが好奇心を持って企業経営を心から楽しんでいることがとても伝わってきます。

マテックスは窓ガラスにまつわるさまざまな業務をしています。一般的には社会課題と結びつけることはなかなか難しい業界ではありますが、企業理念に「窓をつうじて社会に貢献する」を設定することは、まさに昨今の企業の目的を大事にしていくパーパス経営の流れも汲み、とてもパワフルです。

マテックスのスタッフや卸で取引のある皆様にとっても、窓にまつわる仕事が社会性の高いものとして捉え直すことができ、仕事の意味性が増していきます。

窓と社会をつなぐストーリーをわかりやすい言葉で意味づけして届けていく。そのメッセージを受け取った人々に深い理解と共感が生まれ、きっとそれをまた他の人へも届けたい、と思うのではないでしょうか。

これからも正解のない道に挑戦し続ける

松本さんは一貫して、

「私たちの会社は事業として完成しているわけでも、満足いく領域に達しているわけでもない。引き続き、一挑戦者でありたい」

と話していました。

正解がない、と繰り返しお話されていたのが印象的で、代表自らさまざまな場所に趣き、人をつなげ巻き込む。そのエネルギッシュさや自発性から、とても事業を楽しんでいるように思えますが、実際は「不安になる余裕もないからこそ、がむしゃらに動く」と話していました。

創業から長いからこそ、変えるものに取り組み、変わらないものを守り、会社を「社会を変えていく」ツールとして組織文化を醸成していく。

社会を広い視野で、そして長い時間軸をもって見つめ続け、「世界を変える」という大きな目標に対して自社のみならず地域や他社の成長にも貢献しながら楽しく巻き込んでいく。そんな会社の姿に顧客は魅了され、巻き込まれていってしまう。聞いているこちらもとてもわくわくしました。

顧客に愛され、企業を通じて未来を創造する会社のエッセンスを学ばせていただきました。